企業や官庁ではコーポレートガバナンスへの注目度の高まりやコンプライアンスの重視などを背景に、法務人材の需要は増えており、この分野で確かな知識のある人材は不足している状況です。
このような状況下、司法書士資格を持つ方々が企業や官庁の法務分野で活躍するようになるのは自然な流れであるようにも思えますが、まだ数としてそう多くはなく、登録者は更に少ない状況です。
原因としては、まず司法書士の能力がまだあまり知られておらず、企業等が司法書士を会社で活躍する法務人材であると認識する機会がないこと、さらに司法書士側も、前例が少ない中、企業等で司法書士資格を生かして働くイメージが湧いていないことが考えられます。
私たち組織内司法書士協会に所属するメンバーは、現に組織内で働く司法書士有資格者(及び登録者)であり、我々がどのように企業等においてどのように働き、また企業等からどう評価されているのかを知っていただくことで、司法書士有資格者の方々の選択肢が広がるものと考え、アンケートを実施しました。
※のアンケートは回答者数が59名と少数のため、組織内司法書士一般に妥当する結果とは限らない可能性があります。ご了承ください。
■調査方法
当協会では、企業や官庁等の組織において活躍する司法書士の活動実態をより深く理解して頂くために、司法書士の資格を有し、実際に様々な業種や職種に関わる当協会の会員を対象に、2019年にアンケート調査を行い、正会員80名のうち、59名から回答を得ました。
アンケート調査結果の第1弾として、組織内司法書士有資格者が勤めている企業の業種および会社規模に関する実態を、企業内弁護士の状況とも比較しつつご紹介します。
■所属組織の業種
所属組織の業種について第1位が「製造業」(29.8%)、続いて2位が「サービス」(26.3%)となり、高い水準を示しています。続いて「金融・保険」(12.3%) 、「インフラ」「不動産」と、様々な業種に幅広く分布していることがわかりました。
司法書士資格が生かせる場面というと、典型的には不動産の登記業務が思い浮かびます。しかし、アンケート結果を見ると、不動産業の割合は必ずしも高くなく、製造業を中心に、ジャンルを問わず幅広い業界で会員が活躍しています。
これは、司法書士有資格者が、資格が直に活きる場面に限らず、様々な組織内の法的トラブル対応やルール作りに対応可能な人材として、企業に必要とされているためと考えられます。
このことを被雇用者の側からみると、企業内司法書士という働き方は、司法書士の知識・資格をベースにしつつ、実社会でより幅広い業務や知見に触れてみたいと望んでいる方に向いているとも言えます。
■所属組織の会社規模
続いて、会員の所属企業の規模を示す指標として、上場・非上場の区分についてみていきましょう。
およそ半数が「東証1部」(50.8%)となっています。その他の市場を含めると約6割が上場企業となっており、高い水準を示しています。
中小企業庁の集計によれば、2016年6月の時点で、日本の全規模の企業・事業者の総数は358.9万社となっています。そのうち中小企業・小規模事業者の割合は357.8万社と、全体の99.7%にあたり、大企業は1万1157社と全体の0.3%にすぎません。
[参考]中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2016年6月時点)の集計結果を公表します(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2018/181130chukigyocnt.html)」
また、雇用者数でみても、大企業が雇用する社員数は全体の30%程度であり、アンケート結果でみられる上場企業60%という割合は、一般的な割合に比べて多いということができます。
これは、規模が大きく、多方面で事業活動を繰り広げている企業ほど、専門知識を持つ法律職を組織内に雇用することの必要性や利便性を実感しており、司法書士有資格者へのニーズが高いことが理由として考えられます。
■企業内弁護士との比較
企業内司法書士有資格者の所属組織の業種は、企業内弁護士と比較するとどのような違いがあるのでしょうか。日本組織内弁護士協会(JILA)の調査によれば、2012年6月の時点で、所属企業の業種割合は以下のようになっています。
[参考] 日本組織内弁護士協会「企業における法曹有資格者の活動領域の拡大について(取りまとめ)P29 企業内弁護士の業種別弁護士数の推移
もっとも多かったのは、「証券・商品先物取引業・その他金融業等」(18.3%)で、全体の2割弱となりました。ついで、「銀行・保険業」(15.0%)と、金融に関するこの2業種だけで全体の3分の1(33.3%)を占めており、組織内司法書士の12,3%に比べて非常に高いと言えます。
組織内弁護士協会の調査と、当協会のアンケート結果を比較すると、組織内弁護士は金融業が中心であるのに対して、組織内司法書士では製造業とサービス業などの事業会社が多いことがわかります。この違いには事業に関する監督官庁対応の有無や訴訟等の紛争の多寡など様々な理由が考えられますが、いずれも、法律知識や素養を期待して幅広い業種で企業に雇用されている実態がわかります。どちらの資格もこのような企業とのかかわり方は一貫して増加しており、従来のような代理人としてのかかわり方ではなく、現実に製品・サービスを作り出す現場に当事者としてかかわる仕事に関心がある方には、魅力的な働き方といえるでしょう。