企業に勤める“司法書士(有資格者)”の働き方

組織内司法書士の登録について


 企業や官庁ではコーポレートガバナンスへの注目度の高まりやコンプライアンスの重視などを背景に、法務人材の需要は増えており、この分野で確かな知識のある人材は不足している状況です。

このような状況下、司法書士資格を持つ方々が企業や官庁の法務分野で活躍するようになるのは自然な流れであるようにも思えますが、まだ数としてそう多くはないのが現状です。

 

 原因としては、まず司法書士の能力がまだあまり知られておらず、企業等が司法書士を会社で活躍する法務人材であると認識する機会がないこと、さらに司法書士側も、前例が少ない中、企業等で司法書士資格を生かして働くイメージが湧いていないことが考えられます。

 

 私たち組織内司法書士協会に所属するメンバーは、現に組織内で働く司法書士資格者(及び登録者)であり、我々がどのように企業等においてどのように働き、また企業等からどう評価されているのかを知っていただくことで、司法書士資格者の方々の選択肢が広がるものと考え、アンケートを実施しました。

■調査方法

当協会では、企業や官庁等の組織において活躍する司法書士の活動実態をより深く理解して頂くために、司法書士の資格を有し、実際に様々な業種や職種に関わる当協会の会員を対象に、2019年にアンケート調査を行い、正会員80名のうち、59名から回答を得ました。

アンケート調査結果の第四弾として、司法書士協会に登録していない有資格者58名に関し、司法書士登録をしない理由や、3~5年後のキャリア展望についての回答をまとめました。

当協会内の企業内有資格者の登録状況

司法書士試験に合格した有資格者であっても、各地の司法書士会に登録をしなければ、司法書士と名乗ることはできません。協会では会員90名のうち、登録しているのは17名で、登録をしていない有資格者が多いという現状があります。一方、先の第三回の労働条件(収入)に関するアンケートの結果(https://www.inhouseshihoshoshi.com/%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%86%85%E5%AE%B9/%E4%BC%9A%E5%93%A1%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C-2019/vol-3/)で比較した、「組織内弁護士」はすべて各地の弁護士会に登録しています。

■企業内有資格者が司法書士登録をするメリットとデメリット

企業内で働く司法書士有資格者には、司法書士登録をすることで以下のメリットがあります。

1 組織の仕事と司法書士としての仕事との相乗効果が見込める 

2 働き方の選択肢の拡大(組織の一員としてだけでなく、司法書士としても活躍できる)

 

他方で、現実に司法書士登録をする人が少ない理由としては、以下のデメリットがあります。

1 登録に関する制度上の課題(司法書士法上の「事務所の設置義務」や「依頼に対する応諾義務」が発生する)

2 会費の負担

■司法書士登録をしない理由

 

・グラフ(司法書士登録をしない理由)

登録をしていない会員に「司法書士登録をしない理由」を尋ねると、回答の1位が「登録するメリットがない」(48.8%)で最も多く、全体の約半分を占めています。2位が「登録できないと思った」(30.2%)、3位が「会費の負担」(20.9%)という結果でした。

■組織の仕事と司法書士としての仕事との相乗効果が見込める点から

回答1位の「登録をするメリットがない」については、登録して司法書士会に入ることにより何をするのかのイメージがないものと思われます。しかし、実際には、商業登記などを中心に企業と司法書士は密接に関連するはずであり、相互に業務を知り人脈を築くのには大きなメリットがあります。また司法書士会の研修に参加することにより、組織内司法書士が高い知識を持つ法務人材として活躍できるようにもなります。

 

司法書士登録をして、登記など司法書士としての実務経験を行うことができれば、企業法務とのさらなる相乗効果も見込めます。逆に言えば、資格を持っているということだけでなく、受験勉強で得てきた法律知識や素養を組織での業務につなげることができている証拠とも言えます。

■働き方の選択肢の拡大の点から

回答2位の「登録できないと思った」という回答については、司法書士特有の問題が絡んでいます。司法書士登録をしない理由として、「登録できないと思った」(30.2%)、会費の負担(20.9%)と、過半数の会員が登録に関する制度上の課題をあげています。これら半数以上の会員は登録したいにも関わらず、制度上の障壁により登録できない(しない)という現実が反映されています。

 

半数弱は「登録をするメリットがない」と回答していますが、この方々については、そもそも会社員としての業務が、司法書士と親和性がある分野でないと思っていたり、登録して司法書士会に入ることにより何をするのかのイメージがないものと思われます。

 

司法書士法には「事務所の設置義務」や「依頼に対する応諾義務」が定められています。司法書士会の登録審査では、この点を重視して、日中に常時応対ができることを求められたり、場合によっては事務所に常駐することが求められるなど、会社員が登録をするには相当高いハードルがあります。

 

会社員が司法書士登録をする際は、勤務先など、日中に応対ができる場所を事務所とする必要がある上、司法書士との兼業について勤務先の承諾書を提出しなければいけないなど、勤務先の理解が不可欠です。

「司法書士実態調査集計結果」司法書士白書 2017年版P54

https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/publish/hakusho/司法書士白書2017年版/

■3-5年後のキャリア展望

 

・グラフ(3-5年後のキャリア展望)

41.7%もの会員が「会社員と司法書士との兼業」を希望していることが分かっています。次いで、「定年までは会社員」が40%となり、この二つで全体の8割以上を占める結果となりました。

 

会社員の士業登録について、司法書士以外の動向を見てみると、企業内弁護士については、事前許可制が撤廃されて15年以上が経過し、現在では当たり前のものとなっています。また、社労士のように独自の制度(勤務社労士)が存在する士業もあります。

      

会社員についても多様で柔軟な働き方を選択できるよう「働き方改革」が推進され、リモートワークの普及により、時間と場所に縛られない働き方が一般的なものになりました。

 

これだけ働き方や社会全体が変化しているうえに、司法書士資格保有者からの登録を求めるニーズがあり、かつ、政府が副業を推進している現状もあります。これらを踏まえて、会社員等が司法書士登録をするうえでなお本質的な問題があるのか、司法書士のあり方や制度上の障壁について、今一度検討し、見直す必要があるといえるでしょう。