企業や官庁ではコーポレートガバナンスへの注目度の高まりやコンプライアンスの重視などを背景に、法務人材の需要は増えており、この分野で確かな知識のある人材は不足している状況です。
このような状況下、司法書士資格を持つ方々が企業や官庁の法務分野で活躍するようになるのは自然な流れであるようにも思えますが、まだ数としてそう多くはないのが現状です。
原因としては、まず司法書士の能力がまだあまり知られておらず、企業等が司法書士を会社で活躍する法務人材であると認識する機会がないこと、さらに司法書士側も、前例が少ない中、企業等で司法書士資格を生かして働くイメージが湧いていないことが考えられます。
私たち組織内司法書士協会に所属するメンバーは、現に組織内で働く司法書士資格者(及び登録者)であり、我々がどのように企業等においてどのように働き、また企業等からどう評価されているのかを知っていただくことで、司法書士資格者の方々の選択肢が広がるものと考え、アンケートを実施しました。
■調査方法
当協会では、企業や官庁等の組織において活躍する司法書士の活動実態をより深く理解して頂くために、司法書士の資格を有し、実際に様々な業種や職種に関わる当協会の会員を対象に、2019年にアンケート調査を行い、正会員80名のうち、59名から回答を得ました。
アンケート調査結果の第三弾として、働き方を選ぶ上で重要な基準となり、関心が高い「年収」について、組織内司法書士有資格者の実態を、組織内弁護士や独立開業の司法書士と比較しました。
■当協会の年収の集計
・グラフ(組織内司法書士の年収)
アンケート結果によれば、当会員の年収帯につき、1位が「750万円~1000万円未満」で、全体の32.8%を占めました。次いで2位が「500万円~750万円未満」で27.6%、3位が「1,000万円~1,250万未満」で19%となり、いずれも高い水準を示しています。「1,250万~1,500万円未満」の高額年収取得者も10.3%存在し、年収1,000万円を超える会員は合計で全体の29.3%にのぼりました。
第一回のアンケート結果からわかるとおり、当会員の所属する企業・組織は様々な分野にわたっており、組織の規模や、業種にもよっても年収は異なります。しかし、総じて専門性の高い人材として、所属組織から高い評価を得ており、それが高額年収に繋がっているものと考えられます。手続法を深く理解している司法書士の資格が、企業法務において有用であることが推測できます。
■組織内弁護士との比較
続いて、比較対象として組織内弁護士の年収をみていきましょう。以下は2019年2月に実施された日本組織内弁護士協会のアンケート集計結果です。
・グラフ(組織内弁護士の年収)
1位が「750万円~1,000万円未満」で全体の30%、続いて2位が「500万円~750万円未満」で29%、3位が「1,000万円~1,250万未満」で13%となりました。1位、2位までの年収帯、および割合は、組織内司法書士とほぼ変わらないという結果です。
組織内弁護士は3位の「1,000万円~1,250万未満」の年収帯が当協会会員より5%ほど少ないものの、それよりも高額の報酬を得ている者が23%と多いことから、年収1,000万円を超える組織内弁護士は全体の36%となりました。
アンケート結果から、組織内弁護⼠には 年収1500万円を超える年収の方が1割程度いるものの、平均的な年収において、組織内弁護士と組織内司法書⼠有資格者には大きな差はないことがわかります。
■司法書士として独立開業した場合
それでは、司法書士登録を行い、事務所で働く、一般的な司法書士の働き方における平均年収はどうなっているのでしょうか。平成28(2016)年度に行われた日本司法書士会連合会によるアンケート結果では以下のようになっています。
なお、同調査においては、回答者の77.2%が個人事務所を開業しています。
・グラフ(司法書士の年収)
「司法書士実態調査集計結果」司法書士白書 2017年版P54
https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/publish/hakusho/司法書士白書2017年版/
最も多かったのが「200万円~499万円未満」で全体の30.5%、2位が「500万円~749万円」で19.1%、3位が「1,000万円~4,999万円」で17.5%となりました。年収1,000万円以上の高額年収取得者は、司法書士では17.89%と2割弱に留まります。なお、2015年の司法書士白書では司法書士の売上が開示されていますが、このときの売上では1,000万円以上が過半数を占めており(1,000万円~48.7%、5,000万円~6.6%)、必要経費等を控除した所得金額が500万円を超える層は42.5%となっています。2017年版では売上の開示はありませんが、500万円を上回る所得の層が50.89%へ増加していることから売上も増加傾向にあることが推測されます。
個人事務所ではスーツ等の被服費や事務所の用に供する自宅や車の購入等にかかる費用を一定の範囲で経費とするなど、会社員とは必要経費の考え方が異なる点も多く、個人事務所での「所得」と会社員の年収とを同列に扱うことはできませんし、個人事務所の経営では、勤労時間や通勤場所をある程度自分でコントロールできるというメリットがあります。しかし、安定・継続して高収入を得たい場合には、企業内で働く ことも資格者の有力な選択肢といえるのではないでしょうか。
本アンケートの結果との比較に関しては、集計数に大きな差があることをご了承ください。